雷「暁、早く起きなさい!一体何時だと思っているのかしら?」
雷に揺さぶられ、眼を覚ます暁。響と電も、暁の寝顔を眺めている。
暁「……夢、か。そうよね、夢よね」
雷「ボケーっとしてないで、支度するわよ。今日は遠征を任されているんだから。それにしても朝から暑いわね……」
目を覚ました暁。上体を起こし、ベッドの脇に座って、俯いている。
響「暁、支度しないのかい?体調でも悪いのか?」
暁「体調は全然平気よ。でも少し、見た夢のことが気になっているの」
響「どんな夢だったんだい?」
暁「夢に鎮守府が出てきたんだけど……様子が変だったのよね。みんな知らない子ばかりで、見慣れない武器を身につけていたわ」
電「どんな武器を使っていたのです?」
暁「詳しくは覚えてないけど……ロケットみたいなのを発射して飛んでいる敵を撃ち落としていたわ。まあ、演習みたいだったけど」
響「ロケットを使って戦う艦娘……か。そんな簡単に当たるとは思えないが……」
雷「もしかしてそれ、未来の鎮守府の景色なんじゃないかしら!」
暁「未来の鎮守府?」
暁が首を傾げる。
電「はわわ、暁ちゃんは未来が見えちゃうのです?」
響「もし本当なら、実にХорошоハラショーだ」
暁「別に未来って決まったわけじゃないってば」
響「他に、夢で見た光景はないのかい?」
暁が顎に指を添えて、視線を泳がせる。
暁「そういえば、艦娘たちが手を合わせて何かに祈っている場面があったわ。でも、一体何にお祈りをしていたのかしら」
雷「夢の中も夏だったのかしら?季節がヒントになるかもしれないわ」
暁「夏だったと思うわ。艦娘たちが気持ちよさそうに水を掛け合って遊んでいたから」
雷「夏の記念日かぁ。そんなのあったかしら」
電「全く見当もつかないのです、お手上げなのです」
響「もしかしたら、未来の記念日なんじゃないか?」
暁「未来の記念日……だとしたら今の私たちにわかるはずがないわ。それに、夢の中の出来事なんだから、あまり本気で考えても仕方がないのかも……」
電「でも、暁ちゃんの夢の話は面白かったのです」
雷「本当に予知夢だったりしてね。そうだ!夢といえば、ちょうど流れ星の季節じゃない!」
響「と、いうと?」
雷「流れ星に私たちの将来の夢をお祈りするの!いいアイディアだと思わない?」
電「楽しそうなのです!電は賛成なのです」
暁「悪くないアイディアね。皆んなで流れ星を見るなんて、夏の思い出にぴったりだわ」
響「今晩が楽しみだな」
雷「じゃあ、夕食の後に出発だから、そのつもりでいてよね」

  * * *

日暮れ後。夕食を終え、鎮守府の近くの小高い丘に向かう四人。
銭湯を歩いていた暁が立ち止まる。
暁「この辺りでいいかしら?」
四人が空を見上げると、真っ暗闇の中に無数の星々が輝いている。
電「お星様がたくさん見えるのです」
雷「星空って、こんなに綺麗だったのね。いつも任務のことばかりで、空を眺める余裕なんてなかったわ」
響が持ってきたレジャーシートに、四人が腰を下ろす。
暁「全然来ないわね、流れ星」
雷「まったく、暁はせっかちね。まだ五分も経っていないじゃない」
電「でも、皆んなで一緒に星空を見ているのも素敵なのです」
響「あれが、夏の大三角かな」
響が指差す先には、三つの星が燦然と輝いている。
雷「じゃあ、あれがはくちょう座の尻尾ね」
電「どう見ても、はくちょうには見えないのです……」
暁「私には、空母の子たちが使っている弓に見えるわ」

その瞬間、満点と煌めく星々の間に、一筋の閃光が駛走する。

暁「一人前のレディーになれますように」
響「誰も轟沈しませんように」
雷「素敵なお嫁さんになれますように」
電「海が平和になりますように」

その閃光は、一秒と経たないうちに、再び姿を消す。四人は無言で立ち尽くしている。

暁「一瞬で消えちゃったわね……」
響「実にХорошоな流れ星だったな」
雷「皆んなは何をお願いしたのかしら?自分の願い事に夢中で、聞こえなかったわ」
電「願い事ですか?……なんだか恥ずかしいのです」
響「私も……秘密だ」
暁「暁の願い事はもちろん、一人前のレディーになることなんだから!」
雷「暁のことだし、そんなことだろうと思ったわ」
電「今日は楽しい一日だったのです。暁ちゃんと雷ちゃんに感謝なのです」
響「ああ、こういう一日も、いいな」
四人が歩む鎮守府への帰り道は、月と星々の明かりに照らされていた。

—終—